G20は何も分かっていない
『資本主義崩壊の首謀者たち』の著者、広瀬隆氏に聞く
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090423/192786/
世界同時不況の底が見えない。ロンドンで開催された20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)では、世界金融危機の解決が議題となった。国際通貨基金(IMF)の資金を従来の3倍となる7500億ドルに拡大、2010年までに各国が総額5兆ドルを財政支出といった景気刺激策が打ち出された。
しかし、これでサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)で露わになった不良資産問題が片づいたわけではない。金融危機の発端となった米国の政治・経済に精通し、4月17日に『資本主義崩壊の首謀者たち』を出版した作家の広瀬隆氏は、世界経済混乱の原因をどう分析しているのか。
(聞き手は日経ビジネスオンライン 戸田 顕司)
―― 昨年9月に米国で起きたリーマン・ショックの影響は、先進国、新興国問わず、世界経済全体に波及しています。20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)で、各国が景気刺激策を打ち出しています。
広瀬 隆(ひろせ・たかし)氏
1943年東京生まれ。早稲田大学卒業。アメリカ合衆国の権力構造を政財界の人脈調査から分析・研究している。書著に『東京に原発を!』(集英社)、『赤い盾-ロスチャイルドの謎』(集英社)、『世界石油戦争』(NHK出版)、『世界金融戦争』(NHK出版)、『一本の鎖』(ダイヤモンド社)など。
写真:村田 和聡広瀬隆 金融サミットでは、どれほど金融システムの規制がなされるかと見ていましたが、首脳の合意事項としては、「ヘッジファンドを金融規制・監督の対象とする。タックスヘイブン(租税回避地)の規制強化」というだけで終わっています。これは、ヘッジファンドだけが今回のような金融崩壊を起こし、彼らの資金がタックスヘイブンに隠されているという認識によるものです。
この認識は間違っています。ヘッジファンドに代表される“投機屋”が、原油や穀物の価格高騰をもたらし、またその売り逃げを行った結果の暴落となったことは確かです。が、その尻馬に乗って価格高騰を煽って儲け、バブルを生み出し、最終的に世界的な金融崩壊をもたらしたのは、商業銀行などの巨大金融機関だったのです。
G20は、何も分かっていない集団の形式的な会合にすぎません。
制御できない「経済フランケンシュタイン」
広瀬 ここ20年ぐらい米国を調べてきましたが、私が想像している以上の出来事でした。最も興味深かったのが、自分たちが「経済フランケンシュタイン」を作ってしまい、それがどうなるのか誰にも分からない恐ろしさです。
金融損害が全米に拡大した背景には、銀行と証券会社の分離を定めた「グラス・スティーガル法」が“骨抜き”となったことがあります。1999年に発効された「金融サービス近代化法」です。規制の枠を外したことで、米国中のお金が商業銀行を経由してウォール街の投資業界に流れ込む仕組みができました。銀行と証券の利益争奪戦となり、金融界は“投機屋”と化けていきました。
それがグローバリズムのおかげで、こういうことになったと感じています。多分、誰も、自分たちがどういうところに立っているのか、分かっていないのではないでしょうか。
ものを考える日本人は数%しかいない
―― もう一度、自分たちがどのような取り組みをしてきたのか、きちんと検証する必要がある・・・。
広瀬 米国のメディアには具体的な事実が書いてあって、調べる気になればどんどん分かるんですよ。今だったらインターネットで全部読める。だから、考える人間であれば、理解できるように書いてあります。
『資本主義崩壊の首謀者たち』(集英社新書) このことは、例えば2003年のイラク攻撃では、端的に表れました。当時、ほとんどの学生が反対していたし、反対決議を出した州もありました。けれども、考える人は、数の上ではやはり過半数以下なのです。だから、大統領選挙ではジョージ・ブッシュが再選されてしまった。
悔しいけれど、私から見ていると、日本人より米国人の方が考える姿勢は高い。日本は数%いるのかな、失礼だけれども。この20年ぐらいは、何も考えないまま来ているように思えてなりません。それはメディアの責任でもあります。
物事を感覚的にとらえてアピールするのではなく、きちんと事実を伝えていけば、もっと最終的な力は日本にも出てくると思います。米国でも、バラク・オバマを生み出しただけの力、知性はあったわけですから。少なくともそこまでは行ってほしい。
―― 日本では、政治家の失言に関する報道などが目立ちます。
広瀬 レベルが低いですよね。自民党、民主党どっちがいいかって、私、どっちも取らないですよ。考える人は引いちゃっているんですよね。
私たち、60歳を超えた人間が話すと、全員が同じ考え。投票する人はいない、投票する政権がない。日本はどうなったんだ、もう終わりだなという話にいつもなっている。それは決して良くないですよね。
―― どうすれば事態を改善できるのでしょう。
広瀬 1980年代以前と明らかに違うのは、先進国で製造業が衰退して、金融にシフトしていること。私自身もそうですけど、ムダな人間なのです。何も生産していませんからね。だから、はっきり「俺は何で生きているんだろう」と思うことはよくありますよ。本当だったら畑を耕して自給自足したいという気持ちはあります。後悔先に立たず、ですけれども。
コンピューター化して確かに便利になりましたが、そのコンピューターを作るために皆が必死になって働いているんでしょ。不思議だと思いませんか?
コンピューターがなくて不便だった時代は、別の労働をしていたわけですよね。それが、コンピューターを作るばっかりになっている。もともとなかったんなら、なかったでいいのでは。こういう考えが解決策を与えてくれるのではないかと考えてはいるんですけどね。
―― 今となってはコンピューターがない生活は考えられませんが、無理して量を作る必要もない…。
広瀬 ある意味、ワークシェアリングがそうした考え方ですよね。そんなに働かなくてもいいんだよ、という。多分、昔に戻るのは無理だとは思うんですが。
平均値から実態は見えない
広瀬 しかし、現状のままで日本が国家として成り立つとは思えません。首都圏に人が集中し過ぎていて、GDP(国内総生産)のような指標で測っていては地方の苦しみが浮かび上がらないのです。例えば、2~3日間、株価が上がっているから経済が持ち直したようなニュアンスになる。とんでもないことです。平均値で物事を見ていると、広がっている貧困を無視することになる。
写真:村田 和聡 日本で経済的に疲弊している地方へ行って、この人たちをどうすればいいのだろうと考えると、最後は農業を目指す方向に働き手をきちんと割り当てていく。政治家がやらないとダメだと思うんですよ。荒れていく不耕作地を自治体が買い取って面倒を見る。こういうところにお金を使えばいい。
毎年3月になると、失業対策で道路を工事することを皆は仕方ないと思っているかもしれません。確かに失業対策は大事ですが、別に道路工事ではなくてもいい。皆、気づき始めていると思います。
もう少し広い言い方をすれば、生活必需作業。衣食住に限る必要はありません。人間は病気せずに天寿を全うする人はいませんから、医療も必需作業ですよね。本当に必要なことに日本人の労働力を向けていく。失業者、派遣労働者、生活保護者を含めてこれだけ苦しんでいるということは、それだけ労働力が余っているわけでしょう。
原理的には、生活必需作業をやれば、少なくとも自分たちで回り始めます。具体的には、まず農業から。ここに目を向けていけば日本は死なないと思うんですけど。
―― 若い人たちの間でも、日本の将来に希望が持てず、悲観する向きもあります。
広瀬 「我々の世代が悪かったんだな」と私なんかは反省しています。悪いものを止めることに必死になっていたので、どうやったら良いものを作るかまでは言えなかった。事実を追求していくと絶望的な方に行ってしまう。それを潰せば良いのができるという話をきちんとしなければいけませんでした。
バブル崩壊を過ごした若い人たちは、日本に展望が持てないまま、社会の中軸になってしまったのではないかという気がします。我々の頃は、戦争直後で皆が貧しかった。でも、希望は持っていたのです。我々の世代は反骨心がエネルギーとなっていました。それに代わるものを提示できず、そのまま来てしまったのでしょうね。
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